ヒラヒラ - きみにおくるヒジャブ

第1章(だいいっしょう): 出会い(であい)

おおきな橋(はし)をへだてて、北(きた)はお金持ち(かねもち)ばかりが、南(みなみ)はまずしい人(ひと)たちがくらしている、そんな町(まち)が日本(にほん)にありました。
橋(はし)の南側(みなみがわ)でくらすシュンは、今日(きょう)もひとりで夕陽(ゆうひ)をながめていました。

すると、どこからか歌声(うたごえ)が聞(き)こえてきました。後(うし)ろをふりかえると、そこには頭(あたま)から足(あし)まで布(ぬの)におおわれた上品(じょうひん)な女の子(おんなのこ)が立(た)っていました。風(かぜ)で頭(あたま)を包(つつ)む緑色(みどりいろ)の布(ぬの)がフワッとなり、横顔(よこがお)が見(み)えました。
女の子(おんなのこ)はどうやら日本人(にほんじん)ではなさそうです。
「キレイな声(こえ)だなぁ。けど、なんか日本語(にほんご)がヘンテコだぞ。」
よく見(み)ると、女の子(おんなのこ)は泣(な)いていました。

シュンは手(て)をさしだしました。
「ボクの名前(なまえ)はシュン。このあたりに住(す)んでるんだ。見(み)たことないけど、きみもこのあたりに住(す)んでるのかい?」女の子(おんなのこ)は手(て)をじっと見(み)つめて、ためらった様子(ようす)でした。
「あの・・わたしはラニア。ごめんね。でも、あくしゅはできないの。」シュンには理由(りゆう)がわからなかったけれど、手(て)を引っ込め(ひっこめ)ました。なんだかきまずいふんいきになりました。
「わたしは外国(がいこく)から来(き)たの。」
その時(とき)、風(かぜ)が吹(ふ)き、その子(こ)が頭(あたま)にかぶった布(ぬの)がゆれ、心地(ここち)よい“ヒラヒラ”という音(おと)を立(た)てました。
「その布(ぬの)がゆれる“ヒラヒラ”って音(おと)、好(す)きだなぁ。」シュンはラニアが頭(あたま)に被(かぶ)っている布(ぬの)を指(ゆび)さしました。
「“ヒラヒラ”?なあにそれ?」 「“ヒラヒラ”は日本語(にほんご)で布(ぬの)が風(かぜ)にゆれる音(おと)を表(あらわ)すんだよ。」 「この布(ぬの)は“ヒジャブ”っていうの。」 「”ひじゃぶ“?」シュンはその言葉(ことば)を聞(き)いたことがありませんでした。
「お母(かあ)さんからの大事(だいじ)なプレゼントなの。わたしの宝物(たからもの)。」第2章: 強(つよ)い意志(いし)

シュンは、ヒジャブがいい生地(きじ)でできていることに気(き)づき、おどろいてハッと息(いき)をのみました。
「わたしのヒジャブが気(き)になるの?」 「うん!ボク、ヤマト織物工場(おりものこうじょう)ってところではたらいてるからさ。」 「はたらいてるの?学校(がっこう)行(い)かなくていいの?」 「学校(がっこう)おわってから、はたらいてるんだ。自分(じぶん)で生活(せいかつ)しなきゃいけないからね。」ラニアはシュンの横顔(よこがお)をみて、どういう意味(いみ)なんだろうと思(おも)いました。
「ボクの父(とお)ちゃんと母(かあ)ちゃんは死(し)んじゃったんだ。社長(しゃちょう)のニシさんがボクを引(ひ)き取(と)ってくれて、住(す)む場所(ばしょ)とはたらく場所(ばしょ)をくれたんだよ。」
この笑顔(えがお)いっぱいの小(ちい)さな男の子(おとこの)がそんな悲(かな)しい思(おも)いをしていたなんて、ラニアの心(こころ)は痛(いた)みました。
「シュンくん、どうしたらそんなに強(つよ)くなれるの?」
シュンはほほえむだけでした。
「わたしのお母(かあ)さんも亡(な)くなっちゃったの。その悲(かな)しみはとても深(ふか)くて、今(いま)でも立(た)ち直(なお)れないの。」シュンにはラニアの気持ち(きもち)がよくわかりました。
「ラニアちゃん、きっと天国(てんごく)の母(かあ)ちゃんは、ラニアちゃんが泣(な)いているよりも笑(わら)ってる方(ほう)がうれしいはずだよ。」シュンはふりかえってラニアを見(み)ました。
「その歌(うた)、上手(じょうず)に歌(うた)えるようになったらさ、一緒(いっしょ)に歌(うた)おうよ!」--------------------

その頃(ころ)、ラニアとラニアのお父(とう)さんの世話役(せわやく)として遣(つか)わされたサトウが旅館(りょかん)の外(そと)でラニアの帰(かえ)りを待(ま)っていました。
ようやく、ラニアの姿(すがた)が見(み)えました。
「ラニアさん、どちらに行(い)ってたんですか?」サトウは聞(き)きました。
「遊(あそ)びに行(い)ってたの。」ラニアは何(なに)もなかったかのように旅館(りょかん)の中(なか)へ入(はい)り、サトウはその後(あと)を急(いそ)いで追(お)いかけました。
「橋(はし)の南側(みなみがわ)には行(い)かないでください。いいですか?何(なに)か起(お)きたら、お父様(とうさま)に顔向け(かおむけ)できません。」 「一人(ひとり)になりたかっただけなの。」ラニアは部屋(へや)へと戻(もど)っていきました。
「やさしくすればいい気(き)になって。」サトウは表情(ひょうじょう)を変(か)えました。
第3章(だいさんしょう): 宝物(たからもの)

「ラニアさんのことが、ただただ心配(しんぱい)なんです。」サトウはラニアのお父(とう)さんに言(い)いました。
「とっても心配(しんぱい)です。悪(わる)いやつらに出(で)くわすかもしれません。この橋(はし)の南側(みなみがわ)にまずしいやつらが集(あつ)まるところがあります。そこへは行(い)ってほしくないんです。やつらはとてもキケンですから。」「わかった。ありがとう、サトウ。」お父(とう)さんはサトウの肩(かた)をポンっとたたきました。
ラニアのお父(とう)さんが部屋(へや)にもどると、サトウは部下(ぶか)に小声(こごえ)で伝(つた)えました。
「あの子(こ)についていけ。なにかあったら報告(ほうこく)するんだ。」------
次(つぎ)の日(ひ)、シュンとラニアは川沿(かわぞ)いでまた会(あ)う約束(やくそく)をしました。ラニアは、お母(かあ)さんの歌(うた)が書(か)かれた本(ほん)を持(も)ってきました。
「ラニアちゃん、なんでヒジャブで頭(あたま)をかくさないといけないの?」 「私(わたし)の宗教(しゅうきょう)では、ヒジャブはつつましさを表(あらわ)すものなの。だからどこにいても、きちんとした服(ふく)を着(き)て、マナーのある行(おこな)いをしないといけないのよ。シュンくんは色(いろ)んなことに興味(きょうみ)があるのね。」 「うん!きみみたいな子(こ)初(はじ)めて会(あ)ったからね。」シュンはラニアと一緒(いっしょ)に歌(うた)の練習(れんしゅう)をしました。ラニアはだんだんその歌(うた)が歌(うた)えるようになりました。
ラニアの目(め)はみるみる明(あか)るくなりました。
「ラニアちゃん、もうきちんと歌(うた)えるようになったもんね。これからはずっと笑顔(えがお)でいてね!」第4章(だいよんしょう): イヤな予感(よかん)

「洗(あら)えるシルク?」 シュンは聞(き)きました。
「そうさ。普通(ふつう)、シルクはとても繊細(せんさい)で家(いえ)で洗う(あらう)のがすごくむずかしいだろ?それをオレたちは可能(かのう)にしたんだ!この洗(あら)えるシルクがあれば、ヤマトの名(な)は一気(いっき)に有名(ゆうめい)になるぞ!」ニシの右(みぎ)うでのヒデがほこらしそうに答(こた)えました。
シュンは目(め)をかがやかせました。ヤマト織物工場(おりものこうじょう)で働(はたら)く職人達(しょくにんたち)の技(わざ)は日本一(にほんいち)なのです。
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仕事(しごと)がおわり、シュンは川沿(かわぞ)いへ向(む)かい、ラニアを待(ま)ちました。
ラニアがシュンの後(うし)ろから近(ちか)づくと、シュンがあの歌(うた)を口(くち)ずさんでいるのが聞(き)こえてきました。
「ラニアちゃん、あの歌(うた)をいっしょに歌(うた)おうよ!」シュンのとなりに座(すわ)り、二人(ふたり)はいっしょに歌(うた)い始(はじ)めました。

楽(たの)しい時間(じかん)を過(す)ごしていると、後(うし)ろから男(おとこ)の人(ひと)の声(こえ)がしました。
「ラニアさん、南(みなみ)には行(い)かないように、言(い)ったじゃないですか。」サトウの部下(ぶか)たちはラニアの手(て)をつかみました。
シュンは、状況(じょうきょう)が理解(りかい)できずに、立(た)ちつくすばかりでした。
第5章(だいごしょう): やぶれたヒジャブ

サトウの部下(ぶか)たちに連(つ)れられていく中(なか)で、ラニアのヒジャブは木(き)の枝(えだ)にひっかかって、やぶれてしまいました。
ラニアはもはや、声(こえ)も出(だ)せませんでした。
「おまえ、あの子(こ)の友(とも)だちになれると思(おも)って、いい気(き)になるなよ。」サトウはシュンに言(い)いました。
「もうボクたちは友(とも)だちだよ。」シュンは言(い)い返(かえ)しました。
サトウはフン!っと鼻(はな)をならして、さっていきました。
「あんなみすぼらしい少年(しょうねん)とお友(とも)だちになったんですか?」
ラニアはだまったままです。
「南側(みなみがわ)にラニアさんが行(い)ったことはお父様(とうさま)に報告(ほうこく)します。あの少年(しょうねん)には、もう会(あ)わせませんよ。」------
シュンはやぶれたヒジャブを持(も)って工場(こうじょう)へ戻(もど)りました。ニシがそれを見(み)てシュンに近(ちか)づきました。
「大丈夫(だいじょうぶ)か?」 「友(とも)だちのヒジャブがやぶれちゃったんだ・・・。」 「大切(たいせつ)なものだったのか?」 「これはあの子(こ)の宝(たから)ものなんだ。」シュンが、くやしそうに部屋(へや)へ帰(かえ)る様子(ようす)をニシは見(み)ていました。
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ラニアはサトウがしたことをお父(とう)さんに話(はな)しました。
「すべてラニアのためさ。橋(はし)の南側(みなみがわ)の人(ひと)たちについてサトウが教(おし)えてくれた。ちゃんと大人(おとな)の言(い)うことを聞(き)かないといけないよ、ラニア。お前(おまえ)を守る(まもる)ためだったとはいえ、ヒジャブがやぶれてしまったことは、彼ら(かれら)も反省(はんせい)している。」 「お父(とう)さん、そんなウワサ信(しん)じないで。お父(とう)さんも、お母(かあ)さんもどんな人(ひと)にもやさしくしなさいって教(おし)えてくれたじゃない。」第6章(だいろくしょう):希望(きぼう)

ラニアは部屋(へや)のすみっこでやぶれたヒジャブを抱(だ)きしめていました。
「お母(かあ)さん。せっかくもらった大事(だいじ)なヒジャブ、こんなになっちゃって、ごめんなさい。」シュンのことについて、サトウがお父(とう)さんに話(はな)しているのが聞(き)こえてきました。
「ちがう。シュンくんはそんな子(こ)じゃない。今(いま)まであんなにやさしい子(こ)会(あ)ったことないもの。」------
シュンは頭(あたま)を下(さ)げました。
「分(わ)かった。じゃあやってみろ!だが、本気(ほんき)でやるんだぞ。甘(あま)えたことを言(い)ったら、取(と)りやめだぞ。」シュンは約束(やくそく)をちかいました。
工場(こうじょう)で働(はたら)くみんなが夕飯(ゆうはん)に集(あつ)まりました。シュンが明日(あした)からシルクヒジャブの製作(せいさく)を始(はじ)めることをニシがみんなに伝(つた)えました。
「おれたちがついてるからな、シュン!」工場(こうじょう)のみんながシュンをおうえんしています。
「そういえば、シュン、旅館(りょかん)に泊(と)まっているお客(きゃく)さんにシルクの生地(きじ)を届(とど)けるの、ついてきてくれるか?かなり重(おも)いから一緒(いっしょ)に運(はこ)んでほしいんだ。」ヒデが言(い)いました。
第7章(だいななしょう):期待(きたい)

シュンとヒデは旅館(りょかん)に着(つ)きました。
しばらくすると、お客(きゃく)さんがやってきて、ヒデと話(はなし)を始(はじ)めました。
「こりゃあ、美(うつく)しい。」「だんな、ご注文(ちゅうもん)ありがとうございました。」

シュンがまわりを見(み)わたしていると、ピンクのヒジャブをかぶった女(おんな)の子(こ)が、一人(ひとり)でつまらなさそうにベンチに腰(こし)かけているのを見(み)つけました。
「ラニアちゃん!」シュンは小(ちい)さな声(こえ)でラニアの名前(なまえ)を呼(よ)びました。
「ボクだよ、シュンだよ!ここにいるなんて知(し)らなくてびっくりしたよ!」「シュンくん・・・」ラニアは涙(なみだ)ぐみながら話(はな)しました。
外出禁止(がいしゅつきんし)になってしまったこと。
サトウが南側(みなみがわ)の人たちを差別(さべつ)していること。
シュンに会(あ)わせないと言(い)われたこと。
シュンは差別(さべつ)されたことよりも、サトウがラニアを悲(かな)しませていることに腹(はら)を立(た)てました。
「ラニアちゃん、これから毎日(まいにち)手紙(てがみ)をかくよ。」 「ほんと?うれしい!」お客(きゃく)さんとの話(はなし)がおわり、ヒデとシュンは旅館(りょかん)を出(で)ました。
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次(つぎ)の日(ひ)、シュンはおさななじみのタロウに会(あ)いに行(い)きました。タロウは橋(はし)の北(きた)にある裕福(ゆうふく)なお家(うち)の子(こ)ですが、シュンとは大親友(だいしんゆう)です。
「この手紙(てがみ)をその子(こ)にわたせばいいのかい?」タロウが聞(き)きました。
「そうなんだ。おねがいできるかな?」 「もちろんさ、シュン。友(とも)だちだろ。」タロウとシュンはこぶしとこぶしをぶつける、お決(き)まりのあいさつをして、別(わか)れました。
第8章(だいはっしょう): 決意(けつい)

タロウは手紙(てがみ)をラニアにわたしに行(い)きました。ラニアは自分(じぶん)が書(か)いた手紙(てがみ)をタロウに手(て)わたしました。
「ありがとう、タロウくん。」
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このやりとりをシュンとニシは何度(なんど)も何度(なんど)も、しかも毎日(まいにち)くりかえしています。
「ここをこうすれば・・・」シュンは朝(あさ)起(お)きてから眠(ねむ)るまで、技術(ぎじゅつ)をみがくことだけを考(かんが)えました。

ニシは、夜(よる)になってもシュンがまだ工場(こうじょう)にいることにきづきました。
「シュン?まだいたのか?もう遅(おそ)いから帰(かえ)って休(やす)んだ方(ほう)がいい。休(やす)むことも仕事(しごと)のうちだ。」 「ごめん、ニシさん。ボクまだ・・・。」ニシはシュンが手(て)に持(も)っているヒジャブを見(み)ました。
「シュン、こっちにこい。」シュンはニシのとなりに座(すわ)りました。
「技(わざ)というのは、技術(ぎじゅつ)だけじゃない。デビュー曲(きょく)が一番(いちばん)よかった、そんな歌手(かしゅ)がいっぱいいるだろ?それに似(に)ている。
技術(ぎじゅつ)だけじゃ、人(ひと)の心(こころ)は動(うご)かせないんだ。
シュン、今(いま)のおまえは技術(ぎじゅつ)に頼(たよ)るな。魂(たましい)をこめることに集中(しゅうちゅう)するんだ。
大切(たいせつ)な友(とも)だちのことを考(かんが)えながらやってみろ。」
第9章(だいきゅうしょう): 手紙(てがみ)

シュンは、ニシから合格(ごうかく)のハンコをもらいました。ついに、シルクヒジャブが完成(かんせい)したのです。工場(こうじょう)のみんなもシュンの成功(せいこう)をよろこびました。
「シュン、よくがんばったな。こんなに魂(たましい)のこもったシルクヒジャブは、お前(まえ)にしかつくれない。」 「本当(ほんとう)にありがとう、ニシさん。」-----
サトウは旅館(りょかん)の外(そと)でタバコをすっているとき、ラニアが見知(みし)らぬ男の子(おとこのこ)と話(はなし)をしているところをぐうぜん見(み)かけました。
「身(み)なりからして、橋(はし)の北側(きたがわ)の子(こ)だな。だが、何(なに)かニオうぞ。」サトウは男の子(おとこのこ)の後(あと)をつけました。
「はい、これ。」タロウはシュンにラニアからの手紙(てがみ)をわたしました。
シュンとタロウが話(はなし)をしていると、後(うし)ろから声(こえ)がしました。
「しばらく見(み)かけないと思(おも)ったら、こういうことか。」シュンとタロウがふり返(かえ)ると、サトウがニヤついた表情(ひょうじょう)をうかべて立(た)っていました。
サトウはシュンから手紙(てがみ)をうばいとり、サッと目(め)を通(とお)しました。
「いい気(き)になるなと言(い)っただろう?」 サトウは二人(ふたり)の前(まえ)で手紙(てがみ)をビリビリとやぶりました。
「ボクの手紙(てがみ)!」シュンは叫(さけ)びました。
「シュンの手紙(てがみ)をやぶるなんて!なんてことするんだ!」タロウも一緒(いっしょ)になっておこりました。
「キミは北側(きたがわ)の子だろう?ちゃんと友達(ともだち)は選(えら)ばないといけないよ。」-----
一方(いっぽう)、ラニアはお父(とう)さんに全(すべ)てを打(う)ち明(あ)けることにしました。
「お父(とう)さん、シュンくんが書(か)いた手紙(てがみ)を読(よ)んでほしいの。手紙(てがみ)を読(よ)めば、シュンくん がどんなにやさしい子(こ)かわかると思(おも)う。」 「わかったよ、ラニア。読(よ)めばいいんだね。」第10章(だいじゅっしょう):ありがとう

ラニアはシュンと練習(れんしゅう)した歌(うた)をお父(とう)さんの前(まえ)で歌(うた)いました。
「シュンくんが日本語(にほんご)を教(おし)えてくれたの。」シュンが書(か)いた手紙(てがみ)は、ラニアへのはげましの言葉(ことば)でいっぱいでした。ラニアのお父(とう)さんは、手紙(てがみ)に目(め)を通(とお)したあと、うしろめたさを感(かん)じました。
「生(う)まれた環境(かんきょう)やうわさを信(しん)じて判断(はんだん)するなんて、どうかしてた。」 「お父(とう)さん、シュンくんに会(あ)ってもいいでしょう?おねがい。」-----
「シュン!外国(がいこく)のお友(とも)だちがきてるぞ!」ヒデはシュンを呼(よ)びました。
「これをわたしておいで。」ニシがシュンにヒジャブをわたしました。
シュンが急(いそ)いで外(そと)へ出(で)ると、ラニアがお父(とう)さんらしき男(おとこ)の人(ひと)と立(た)っているのが見(み)えました。
お互(たが)いを見(み)て、ラニアとシュンは笑顔(えがお)でいっぱいになりました。ラニアはお父(とう)さんにシュンを紹介(しょうかい)しました。
「シュンくん。本当(ほんとう)にすまなかった。サトウのキミに対(たい)しての差別(さべつ)のこと、すべて聞(き)いたよ。彼(かれ)のしたことは上(うえ)に報告(ほうこく)ずみだ。だからもう心配(しんぱい)はいらないよ。」シュンはれいぎ正(ただ)しく頭(あたま)をさげました。

ふくろを開(あ)けてすぐに、ラニアの目(め)は涙(なみだ)でいっぱいになりました。
「これ・・。ヒジャブをくれるの?それにお母(かあ)さんのとおんなじ色(いろ)・・。」 「そうさ!ボクがつくったんだよ!」ラニアのお父(とう)さんがヒジャブを手(て)に取(と)りました。さわり心地(ごごち)の良(よ)さと、ヒジャブから感(かん)じる「何(なに)か」に心(こころ)をうばわれました。

シュンはうなずきました。工場(こうじょう)からニシもあいさつをしにやってきました。ニシはヤマトと洗(あら)えるシルクについて紹介(しょうかい)をしました。
「シュンくん、わたしが国(くに)に帰(かえ)っても、わたしのこと覚(おぼ)えててくれる?」ラニアは聞(き)きました。
「もちろんだよ。ボクたちもう親友(しんゆう)だよ。絶対(ぜったい)に忘(わす)れないさ。」

ラニアのお父(とう)さんは、何(なに)か思(おも)いついたように、ニシに言(い)いました。
「ニシさん、ラニアのヒジャブと同(おな)じものを買(か)わせていただけませんか?これをわが国(くに)の王妃(おうひ)におくりたいと考(かんが)えています。」 「王妃(おうひ)に?それは光栄(こうえい)なお話(はなし)です。是非(ぜひ)お作(つく)りします。」ニシとシュンは大喜(おおよろこ)びで顔(かお)を見合(みあ)わせました。
ラニアはヒジャブにそえられたメッセージに気(き)づきました。
「ありがとう」
@Ryota - 編集長
@Nur Azimah - 脚本
Jared - 絵
ボクたちは京都(きょうと)の山藤(やまとう)織物工場(おりものこうじょう)の力(ちから)を借(か)りて、絵本(えほん)の中(なか)に出(で)てくる『あらえるシルクヒジャブ』をじっさいに作(つく)りました。
しょくにんのたましいが、そこには込(こ)められています。
自分(じぶん)へのごほうびや、大切な人(たいせつなひと)へプレゼントをおくるさいに、この『あらえるシルクヒジャブ』のことを思い出して(おもいだして)もらえるとうれしいです。
しゅうえきは、この物語(ものがたり)をたくさんの方々(かたがた)に届(とど)けるための活動費(かつどうひ)にさせていただきます。
応援(おうえん)よろしくおねがいします!